甘∞士

個別のアマガミスト

アマガミSSのSSは∞の意味 アマガミと異質な知性

この文章はコミックマーケット95で頒布された、東洋大学SF研究会

会誌「ASOV vol.46 異質な知性特集」に寄稿したものです。

東洋大学FSM(SF研・幻文研・ミス研) (@ToyoFSM) | Twitter

 

アマガミ10周年に向けて、これを祈りとさせていただきます。

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「数分で語り尽くせる着想を五百ページに渡って展開するのは労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。よりましな方法は、それらの書物がすでに存在すると見せかけて、要約や注釈を差しだすことだ」ーー『伝奇集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス

 

 

アマガミ』は2009年に発売された恋愛シミュレーションゲームソフト。本作は人気を博し漫画化や二度のアニメ化といったメディアミックス展開もなされた。本文ではゲームソフト『アマガミ』、またアニメ版アマガミアマガミSS』シリーズを用いて進行する。

 

アマガミSS』から読み取るSF

 アマガミSSはアマガミ方式と呼ばれる作品構造で作られている。ヒロインごとにストーリー(ルート)を作り、ヒロイン6人それぞれに4話ずつ配分した24話+2話の全26話でアマガミSS全体を形作る。主人公が中学三年でクリスマスに振られる共通部分から、ヒロインごとに分岐して話が進む。分かりやすく言うと、アマガミ方式はパラレルワールドだ。クリスマスを起点として世界が分岐していく。

 また、アマガミ世界は分岐しているだけでなく、ループもしている。SS最終回 第26話 橘美也編「イモウト」の次回予告はSS初回 第1話 森島先輩編「アコガレ」になっている。

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26話の次回予告、1話の予告をしている

 この作品構造から、アマガミはSF作品として考察できると考えた。

 

 

第26話 橘美也編の特異性を紐解く

 第26話は美也がいつまでも彼女ができない兄(主人公)を心配し、美也が拾ってきた子猫との交流を通して心配が払拭されるというストーリーだ。ラストシーンで主人公が誤って風呂を覗いてしまい「馬鹿にぃに」と叫ばれてアマガミSSは幕を閉じる。

 第26話はどの世界線とも、ヒロインと主人公の関係性が違っている。SSは世界線(ルート)によっては、ルート外のヒロインと仲良くなることも、一切知り合わないこともあるのだが、第26話世界では全員と交友関係を持っている。恋仲ではないのでアニメオリジナルのハーレムルートとはいえないが、まるで第1~第25話のパラレルワールドを包括したような世界になっているのが、ヒロインたちの主人公への印象や態度からうかがえる。

 つまり第26話の特異性とは全ヒロインと仲良くできること。そして唯一、劇中で主人公に彼女ができない世界であることだ。この特異性から第26話は他話とつながりを持たない独立した世界に見える。

 しかしアマガミはループする作品だ。第26話の次回予告が第1話になっている以上、世界はつながっている。第26話の性質は、第1~第25話の性質を持つということ。見方を変えれば、それは第1~第25話が26話の性質を持っているということの裏付けでもある。

 第1~第25話の要素を、第26話が取り込んだのではなく、第26話を基にして世界が分岐したのではないだろうか。第26話を基に世界が生まれたと考えれば、ヒロイン全員と仲良くできていることに説明がつく。第26話のヒロインと仲良くできるという性質が他の世界に受け継がれたのだ。第26話から世界が生まれたのだから、第26話は実質第0話といっても差し支えない。

 なぜ世界が分岐したのか?その原因は橘美也にある。第26話世界はそのまま続けば、美也が思う通り主人公にいつかは彼女ができるだろう。しかしラストシーンにて主人公が美也の風呂を誤って除いてしまう、これによって美也の心配が再び喚起される、馬鹿にぃにには彼女ができないと思われる。

 なぜ橘美也が世界を生み出せたのか?それは美也が神だからに他ならない。アマガミSSの神話的性質については*1を読んでいただくとして、第26話には明確に美也を神たらしめた行動がある。兄への甘嚙みである。

 美也は子猫が親猫に嚙みつくのを止めようとするが、それは甘嚙み、愛情表現であると兄に教えられる。帰り道、美也は兄に詫びと愛情の印として甘嚙みを行う。

 

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子猫の親猫への甘嚙み

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美也の甘嚙み 棚町の甘嚙みが最初だが、この世界を作り出した美也の甘嚙みが原初の甘嚙みとなる

 

 アマガミとはつまり天つ神、天が巫と解く事もできる。もともとタイトルが神と接続しているわけだ。もともと神に近い作品で甘嚙みを、嚙みを行えば神になるのも不思議ではない。そして帰宅した美也が行ったのは入浴だ。神となった美也が水を浴びればそれは水垢離・禊となる。禊とはイザナギの神産みだ。黄泉の国から戻ったイザナギは、黄泉の穢れを落とすために入水し体を清めた。イザナギの身に着けていた物、体の垢などから合計して26の神が生まれた。26、アマガミSSの話数と同じなのも偶然ではないだろう。橘美也の禊はイザナギの禊と違い裸で行っているので、生まれる神は8柱のみになる。禊では垢から8柱が生まれる。まず体表面の垢で2柱、そのあと風呂に肩までつかることで底、中程、表面での清めが行われ+6柱と合せて8つとなる。これで8の神、8つの世界、8つの宇宙、8人の天神*2の世界が生まれる。そして8とは、アマガミSSのSSが重なった姿、つまりは∞(無限)のアナグラムだ。もともとタイトルに無限の意味が冠されていたのだ、これで世界がループすることにも説明がつく。

美也が作り出した宇宙はそれぞれのヒロインと主人公が結ばれる世界であり、物語が始まる押し入れプラネタリウム*3は、美也が作り出した宇宙そのものなのだ。

 また、我々が住むこの宇宙も美也が生み出したものかもしれない。

 アマガミのCMを見ると、六角形が強調されている。原作ゲームでは、ヒロインを選択するとき、六角形のイベントアイコンを選択する。アマガミは雪の結晶を重要な象徴としているので、雪の結晶を構成する六角形が用いられる。

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印象的なヘックス

 六角形の構造、ハニカム構造は自然界にも人工物にもよく使われる。昆虫の複眼、玄武岩の柱状節理、カーボンナノチューブ、ピリミジン塩基、電子機器……。アマガミ構造はあらゆるものに用いられている。ホルヘ・ルイス・ボルヘスの「バベルの図書館」で、宇宙と定義される図書館の回廊が六角形で構成されていることも偶然ではないだろう。

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アマガミは永遠に幾何学する

 

 

 また「バベルの図書館」自体が、作中の図書館に所蔵されている。

つまりアマガミが生み出した宇宙にはアマガミが生まれ、そのアマガミがまた別の宇宙を作り出し、再びアマガミが生まれ宇宙も生まれていく、無限のループ構造になっている。「バベルの図書館」が既に書かれ、図書館に所蔵されているように、宇宙がアマガミが生みだし、アマガミが宇宙を生み出す。

アマガミと世界の繰り返しは*4でも指摘されている。

 

アマガミ』から異質な知性を読み解く

 では、ようやく本題に移ろう。本会誌のテーマは異質な知性。ここまで「アマガミ」における異質な知性には迫れていない。アマガミの神話的要素とSF要素を書き連ねたのは、アマガミがただの恋愛シミュレーションではない、SF的に解釈可能な神話物語、すべてに意味を持つような作品であると分かってもらいたかったからだ。ここまではアニメ『アマガミSS』を主題に話したが、ここからは原作ゲーム『アマガミ』から異質な知性を探っていく。

 

主人公とプレイヤーの接続

 押し入れプラネタリウム橘美也が生み出した宇宙であり、別宇宙へとつながっている。主人公は押し入れプラネタリウムによって別のヒロインが待つ別の世界へと赴き、高校二年生の冬を繰り返す。

 押し入れプラネタリウムは我々の宇宙にもつながっている。正確には我々の世界に存在する『アマガミ』というゲームに。そしてアマガミを遊ぶプレイヤーにだ。

 主人公はクリスマスに向けて今までの自分から脱却せんとする。しかしそれだけでは足りない。主人公だけでは、今までの日常を延々と続けていくだけだ。彼は無意識にそれを理解していたのか、別宇宙に接続される押し入れプラネタリウムに、再び入り込んだ。

 主人公はプレイヤーという外部の存在、アマガミ世界には存在しない知性と接続した。主人公は2つの意識を持つ異質な生命体となり、プレイヤーによる行動の決定・出力によって日常を抜け出す知性を手に入れたのだ。

 アマガミというゲームは別宇宙との交感装置であり主人公は押し入れプラネタリウムを通じてプレイヤーに接続し異質な知性を得た唯一の生命体といえる。

 

テキストと音声の乖離

 アマガミはテキストと音声の乖離がある。テキスト上はプレイヤーが与えた名前だが、音声は名前を呼ぶことはない。名前はキミやあんた、あなたなど、ヒロインたちに好きに呼ばれることになる。*5

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名前は二人称代名詞に変換され、呼ばれることはない

これをゲーム的な都合のひとことで片づけてしまうのはよろしくない。

このゲームは、全てに意味が存在する。

 音声はプレイヤーに対して発せられているのではないだろうか? 名前を呼ばないのは、あくまでもこの名前は主人公の名前であって、プレイヤーの名前ではないからだ。だからこそ音声では名前を発音せず、抽象的な二人称を用いて画面の前のプレイヤーに呼びかけをしていると考えられないだろうか?

 主人公が本来交わらない我々に押し入れプラネタリウムを用いて接続したように、ヒロインは主人公を通して我々に干渉している。主人公が異質な知性であるようにヒロインたちも第四の壁を超え外宇宙の我々へと干渉を可能にする知性となったのだ。

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宇宙を越えるのに、どうしてここまでの感情が必要なのでしょう?

 

アマガミと現実世界

 宇宙を構成する様々な物理定数がわずかでも異なっていればアマガミは存在しなかっただろう。アマガミが存在するための条件を余りにもうまく揃えすぎていることから、宇宙はその発展の過程で必ずアマガミが生まれるようにファインチューニングされていると考える事が自然である。*6

 美也の宇宙創成から考えるに、この考えにおかしいところは見当たらない。アマガミSSの背景に千葉県銚子市そっくりの建物が用いられているのも、この世界がアマガミから生み出されたことの証左だろう。アマガミSSの聖地が銚子市なのではなく、銚子市の聖地がアマガミSSなのだ。

 

 アマガミが私たちプレイヤー、つまり別宇宙の知性体と交流を可能にした。...そして地球外の生命体とも交流も可能にする。...実はアマガミとつながりの深い銚子市は、UFOの目撃情報が昔から多いのだ。*7

 異質な知性を持った主人公がヒロインに影響を及ぼし異質な知性を持たせたように、異質な知性は異質な知性の呼び水となり引き寄せる。ヒトがアマガミという異質な知性を得て、呼び寄せるモノとは……。

アマガミに導かれ、新時代がいま、始まろうとしている。

 

おわりに

 グダグダ書いておいて異質な知性成分が少なすぎやしないか…?

 さて、友人にこの文章を見せたところ、某新説シリーズっぽいと言われた。折角なので適当に思いついたアナグラムで〆ることにする。

 『アマガミ』、アルファベットで「Amagami」。しばし前に鏡の世界を題材にした映画「続・終物語」を見たので、文字を鏡の世界から見てみよう。「Amagami」を鏡の世界から見ると「Vweaewi」の文字がでる。いくらか線が失われているような気がするが、きっと鏡の反射率のせいだろう。そして、プレイヤーがいないと物語は始まらないので、これに私「I」を足す。

 並び変えると「we view AI」*8。Weはヒロインたちと私。AIは愛。そしてViewには「眺める」だけではなく「解釈する」という意味もある。つまりアマガミとは人類が未だ明確に答えをだせない「愛」、その解釈のひとつなのです。

アマガミ』、このゲームは私と森島先輩の感情のやりとり。つまりは、愛です。

 

 

参考資料

・「作る: アマガミSSテレビ」

柳田國男折口信夫の「アマガミSS 全話レビュー」

・「伝奇集」ホルヘ・ルイス・ボルヘス

 

*1:柳田國男折口信夫の「アマガミSS 全話レビュー」』より

 仏教やカバラを用いてアマガミを神的物語と結び付けた名レビュー。森島はるか編において、物語の本質が反復と循環にあることを証明した。また、6人のヒロインが真言の六大を司る宇宙の実体、六大体大だとし、アマガミの作品構造と真言の世界観との一致を指摘している。アマガミ考察に絶大な影響を与えた必読の書物。

*2:ヒロインについて、6人+2人

 天神とされるヒロインは諸説あるが、メインヒロイン6人+隠しヒロイン+美也が、八乙女として正確だろう。美也は主人公と恋愛をしないが、押し入れを開ける役割を果たしている。押し入れのモチーフは天岩戸であり、美也がアメノウズメの巫女である事を仄めかすメタファーだ。*1原作ゲームでは主人公が家から出ることで朝が始まるので主人公と天照大神の結びつきが強調されている。

*3:押し入れプラネタリウムとは

 主人公が押し入れに蛍光ペンで星を書いただけの、もはやプラネタリウムとも呼べない簡素なもの。嫌なことがあったとき、主人公は押し入れにこもり星を見る。原作でもアニメでも物語はここから始まる。押し入れプラネタリウムには布団があり、風景と温さは子宮と宇宙を再現している。主人公はそこで生まれ直し、また新たに自分を規定していくことになる。アマガミはヒロインたちの過去現在未来をつなぎ合わせるパズルのようなゲームだが、これはヒロインと接する主人公にも同じことが言えるのだ。

 ちなみに『アマガミSS』シリーズはアマゾンプライムで全話配信されているが、26話だけがアニメではなく映画として登録されている。26話が持つ神話的宇宙スペクタクルの壮大さがそうさせるのだろうか

 さらにさらに、プライムミュージックでもアマガミ関連楽曲が聴けるので、アマゾンがアマガミを推しているのは明白。アマゾンとアマガミ、名前も似てるしな! 個人的にはアマゾン出資の新アマガミアニメがあると思っている。(追記:クリスマス直前の1223日にプライムからアマガミが消失し、この妄想は露と消えた。アマゾンを...潰す!)

*4:「作る: アマガミSSテレビ」

 アマガミSSを流し続ける装置を作る話。アマガミテレビという別乾坤を建立した。命の終わり、宇宙の終わり、アマガミの永遠に思いを馳せる。アマガミを知らなくても楽しめる名文。

*5:テキストと音声の乖離について

 例 テキスト「ふふっ、(名前)らしい答え。」 音声「ふふっ、あんたらしい答え。」

*6:参考資料の作者、clavis氏のツイッター @clavis より引用(2012-7-5)https://twitter.com/clavis/status/220571849682206720

*7:銚子のUFOについて

 「銚子事件」昭和31年千葉県の銚子一帯で謎の飛行物体が目撃された。飛行物体は謎の金属箔をバラまいて消えた。

 2016年に開催された「銚子にUFOを呼ぼう!」では実際にUFOの召喚に成功している。

*8:アナグラム

Amagami ↓鏡の反射

Vweaewi → Vweaewi → Vaewia + I

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